『まほろ駅前番外地』を読む
読書感想第2回目
今回は番外編
(この読書感想にはネタバレが含まれます)
【窓井来足】*1
さて、今回は前回に続いて『まほろ駅前』シリーズの第2作にして番外編の。
『まほろ駅前番外地』の感想……なんだけど。
【桑林識句】*2
なんだけど? まさか、また何から話そうとかで悩んでいるんじゃないでしょうね。
【窓井】
いや、個人的な意見を言ってしまうと。
短編集みたいな本の場合、思い入れが強い話と、そうでもない話があって。
平等に扱うっていうのが難しいというか。
【識句】
まあそうでしょうけど。
でもそれを言ったら読書感想自体、全ての本を平等に扱うっていうのは無理でしょう?
【窓井】
まあ、そうだよね。
客観的にどうかではなく、あくまで僕自身の感想で書いている訳だから。
ただ、問題は「面白い小説だったから感想が長く書ける」という訳でもないという。
【識句】
それはどういう事かしら?
【窓井】
ん? 僕個人としては感想が長くなるのは「内容が考えさせられる話」だけど。
単に文章を読んでいる時に面白いっていう小説もあるから。
後者だとあまり書けないってことだよ。
【識句】
まあ、そういう人もいるでしょうね。
――、そういうのは置いておくとして。
今回、窓井さんはどの話が好みだったのかしら?
【窓井】
個人的にはだけど。「星良一の優雅な日常」とか「由良公は運が悪い」みたいな。
登場人物の日常生活が出てくる話は読んでいる時に面白かったりして。
【識句】
ああ、何となくわかる気もするわね。
自分じゃない誰かにとっては当たり前の日常っていうのが新鮮というか。
【窓井】
そうそう。朝食は何を食べるとか、日課に何をしているとか。
どんな服を好むとか、音楽は何が好きとか。部屋に何が飾ってあるとか。
そういう自分とは違う「普通の日常」というのに味わいがあって。
【識句】
それで、登場人物になりきって、自分の実際の生活も変えたりするのでしょう?
【窓井】
いやいや、そこまで影響されやすくは。
【識句】
……………………。
【窓井】
な、無いとは言わないけど。まあ、その話はいいとしても。
個人的には先に挙げた2つの話が気に入っていて。
例えば「星良一の優雅な日常」について。
この話の星良一は、半分自分に似ていて、半分全く違うみたいな感覚を覚えるのが面白かったりするし。
【識句】
半分似ている? というのは?
【窓井】
僕自身、規則正しい生活とか、日々のトレーニングは好きだからね。
ただ、この星という人物は裏社会とか、そっち系の人だから、その面は全く自分と違う訳で。
共感できる面と、全くそうでない面があるからそこが良いっていうか。
【識句】
まあ、確かに。
全く共感できないような悪党っていうのもそれはそれで面白いかもしれないけれど。
悪人なのに自分と同じところもあるとなると。
共感と嫌悪あるいは憧れみたいな2つの感情が絡み合うから面白いのかもしれないわね。
【窓井】
嫌悪あるいは憧れ?
【識句】
人間って悪い事をしている奴には嫌悪感を覚えるけれど。
社会の正しさに縛られずに生きている人に、憧れる感情も持っているものでしょう?
【窓井】
まあ、そうなんだけど。
識句さんもそういう悪い奴に憧れたりする訳?
【識句】
あなた、私の事を「悪を否定するだけの正義感の強い女の子」だとでも思っているのかしら?
【窓井】
いや全く。
【識句】
……ならいいのだけど。
ところで、他の話についてはどうなのかしら?
例えばさっき話題に挙げていた「由良公は運が悪い」とか。
【窓井】
あの話はどちらかというと由良より、行天が魅力的かな?
【識句】
まあ、そもそもタイトルの由良公という呼び方自体。
行天が由良を呼ぶ際に使っている呼び名だから。
あの話はそもそも「由良という少年視点で行天を描いた作品」だと思うのだけれど。
【窓井】
そうかもしれないけど。
兎も角、あの話は行天の「思いついても普通はやらない行動をして、しかも上手い事やってのける」という面とか。
「普通の大人基準なら駄目な感じだけど、頭は回るし、例え少年でも対等な人として扱っている」面とかを存分に見ることができて個人的には好きなんだよね。
【識句】
そうね。他の話だと行天は子供が苦手という事だけれど。
あれは彼が子供を子供扱いせず、対等な人間として考えているからという面もあるんじゃあないかしら?
勿論、この辺りにも彼の過去の事情が絡んでくる気もしているけれど。
【窓井】
そうかもしれないね。その点由良は少年としては大人な思考をしているから。
行天の方も、単に年下扱い程度で済んでいるから付き合いやすいのかもしれないし。
【識句】
ところで、今回収録されていた話には。
いくつか、そういう行天の過去に関わりそうな話もあったと思うのだけど。
【窓井】
うーん。あの手の話の感想なんだけど。
これについて触れると次回扱う『まほろ駅前狂騒曲』のネタバレにもなりそうだし。
特に「なごりの月」なんかは。
【識句】
だから、ここでは感想が書きにくいと。
【窓井】
まあ、そういうのもあって最初に言ったように平等に話を扱うのが難しい訳で。
だから、今回話題にしてない話が面白くなかったわけでもないと。
――ところで、識句さんとしてはどの話が面白かった?
【識句】
「銀幕の思い出」
【窓井】
ああ、あの話ね。
個人的には戦後すぐの町田……いや、まほろの様子が面白かったし。
あと、あの話で出てくる「カフェーアポロン」のモデルになったお店。
あれはすでにない*3から。この小説自体が町の過去を記録したものにもなっていて……。
【識句】
いえ、それもあるけど。
恋愛の話が興味深かったと。
【窓井】
え? 識句って恋愛ものとか興味ある系なの?
【識句】
あなた、私を何だと思っているのよ。じゃなくて。
男一人女二人の三角関係はずるずる長引くという話が。
全く持ってその通りだから、感心しただけよ。
【窓井】
うーん。どうだろう? だって、君たちの場合。
結託はしていないけど、取り合いじゃなくて譲り合いになっているだろう?
【識句】
君たち……? さて、何の事かしら?
【窓井】
………………まあいいや。
さて、という事で今回は『まほろ駅前番外地』の紹介でした。
次回は『まほろ駅前狂騒曲』を扱う予定なので、よろしくお願いします!!
(この記事で窓井と会話している桑林識句は架空の人物ですが、読書の感想については実際に窓井が読んで感じた事を元にしています)