『まほろ駅前多田便利軒』を読む
読書感想第1回目
過去と再生と
(この読書感想にはネタバレが含まれます)
【窓井来足】*1
さて、前回の予告通り、今回は第1回目の読書感想として。
『まほろ駅前多田便利軒』の感想なんだけど。さて、どこから話そうか。
【桑林識句】*2
その前回というのから随分経っている気がするけれど……それはさておき。
どこからって。とりあえず気に入った部分とかからにしたらどうかしら?
【窓井】
気に入った部分ねぇ……。
とりあえず僕としては、あまり綺麗事は描いていないというか。
むしろ、どうすることもできないとか、どうしようもないとか。
そういう要素の方が強いという点が、この作品の好きなところかな?
【識句】
どうしようもない?
【窓井】
まあ、これは。
過去に起きた事はどうしようもないという点と。
登場人物が世間的には「どうしようもない」側の人という点の。
2つの点でなんだけど。
【識句】
そうね。世間的にはあなたも「どうしようもない人」側でしょうから。
その分、共感できるのかもね。
【窓井】
……なんか尖った言い方だなぁ、と思いつつその通りで。
僕自身が「過去の取り返しのつかない事」で「世間的にはどうしようもない側の人」になったような人間だから。
まさに、そこに共感しているっていうか。
【識句】
ふうん。つまりあなたは。
登場人物の多くが過去に起きた事で傷を抱えていて。
結果として世間一般とか普通、あるいはまともと言われるような生き方をしていない……いえ。
ひょっとしたら「できない」というべきなのかもしれないけれど。
兎も角、そこに魅力を感じたって事かしら?
【窓井】
うーん。そこはまだ共感ではあっても魅力じゃあなくて。
この『まほろ駅前』シリーズでは「傷を乗り越えて成長する」みたいな点に対して綺麗事を言っていない辺りが。
個人的には魅力なんだよね。
【識句】
それは具体的にはどういう事かしら?
【窓井】
例えるなら「傷を抱えて、あるいは乗り越えて生きている」事自体は美しいとしていても。
「傷の分、他の人より成長する」とか「成長できたから良かった」みたいな美化の仕方はしていないっていうか。
僕としてはそんな感じがして、そこが好だったりして。
【識句】
なるほど。確かに世の中、辛い目に遭った人に。
「苦しみは人を成長させる」とかいう人もいるけど。
当事者からしたら、知った事ではないのかもね。
【窓井】
まあ、多分その手の「苦しみは人を成長させる」という意見の人は。
例えば「自分の行いが人を傷つけた」とか「人を助ける事ができたのに、しなかった」みたいな。
後悔からくる苦しみをあまり想定していないんじゃないかって思うんだけど。
【識句】
後悔からの苦しみでも成長はできるでしょうけど――
【窓井】
「成長できたから良かった」にはならないんだよね。この場合は。
【識句】
まあ、そうでしょうね。
他人を犠牲にしたことに対する後悔を、自分が得した事で良しとできるような人なら。
最初から後悔しないでしょうし。
【窓井】
まあ、それ以外の事も含めて。
この作品では「苦しみは人を成長させるから良い」みたいな考えを否定している面が強い感じがするけど。
でも、登場人物たちは後悔の中で先に進もうと足搔いている感じがして。
そこが私としては魅力なんだよね。
【識句】
足搔くところは良いのかしら?
【窓井】
後悔に立ち向かうために足搔くか、それとも何もしないかは本人の意思だけど。
僕個人としては、後悔に立ち向かう人の方が好きだからね。
【識句】
つまり、あなたの好みという話なのね。
【窓井】
どう生きるかは人それぞれだけど。
どんな生き方をしている人が好か嫌いかも人それぞれだからね。
で、この辺りの後悔とか納得とかに関しては。
「不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だという事はない」
っていう作中の台詞が気に入っていて。
【識句】
その台詞、いいわよね。私としてはその台詞と、
「愛情というのは、愛したいと感じる気持ちを、相手から貰うこと」
という台詞はこの作品の内容にとって、結構重要だと思っているのだけれど。
【窓井】
ああ、そっちもいい台詞だよね。
【識句】
ええ、まあいい台詞ではあるのだけれど。
何かこの2つの台詞からは作品全体に関わるものの考え方が見える気がするのよね。
例えば――おっと。
多分これは続編の内容にまで関わってくるんじゃないかしら?
【窓井】
続編?
【識句】
ええ。まあ、それはその時にまた話すとして。
最後になるのだけど。確かこの作品が『トライブレイバー』に影響を与えた部分があるって言っていたけれど。
それはさとりさんの苗字……確か、厳密には偽名だったはずだけど。
それが「麻幌」だという事かしら?*3
【窓井】
うんまあ、それが一番わかりやすいところだね。
ただ、もう一つあるとするならば『まほろ駅前』作中で町田……いや、まほろ市だけど。
そこの事を「どっちつかず」とか「文化と人間が流れ着く最果ての場所」と表現している部分があって。
これが『トライブレイバー』が「境界線」をテーマにしている理由の一つだったりして。
【識句】
え? そうなの?
【窓井】
まあ、実際には制作のかなり早い段階で。
境川を作品の重要なポジションに置いたり。「町田は東京なのか神奈川なのか」と言われる事を意識していたり。
あるいは「地元だけ栄えさせようとする奴らをローカルヒーローの敵にしたらどうか」と考えていた事もあって。
逆にヒーローは「他の地域との繋がり」を重要視するようにしていたから。
境界線が『トライブレイバー』のテーマというのはなんとなくはあって。
『まほろ駅前』を読んだ時により一層強くテーマとして描こうと思った。
という感じなんだけど――ただ。
【識句】
ただ?
【窓井】
そういう直接的に影響を受けた部分を除いても。
やっぱり『まほろ駅前』シリーズは町田を舞台にした作品としては有名な上に。
僕自身も好きな作品だから、結構『トライブレイバー』を作る際にも意識している面はあるよなぁ……と。
【識句】
なるほどね。
で、次回の感想もその『まほろ駅前』シリーズになるんでしょう?
【窓井】
まあ、前回言ったようにこの読書感想は町田市民文学館が出している「町田が登場する文学作品」に沿って1番から読んでいるから。
あと2回はそうなるね……という訳で。
次回は『まほろ駅前番外地』の感想になる予定です!! よろしくお願いします☆
(この記事で窓井と会話している桑林識句は架空の人物ですが、読書の感想については実際に窓井が読んで感じた事を元にしています)