『まほろ駅前狂騒曲』を読む
読書感想第3回目
今更ながら……
(この読書感想にはネタバレが含まれます)
【窓井来足】*1
さて、今回は第1回、第2回に続いて『まほろ駅前』シリーズの第3作の。
【桑林識句】*3
なんだけど? って、前もこんなやり取りだったけど。
今度は一体何?
【窓井】
今更だけど、この作品。
町田をモデルにした町が舞台だけど、町田は登場しない作品だよね。
【識句】
本当に今更だけど……。
まあ確かに町田をモデルにした町が舞台とはいえ、この作品に町田は登場していないわね。
それでいて他の地域の名前はそのまま登場しているっていう。
【窓井】
で、そういう作品を町田が舞台の文学作品を読むコーナーで扱っているっていうのも、なんか不思議な感じがするっていうか。
【識句】
とはいえ、文学館が出していたリストでも最初の3冊がこのシリーズだし。
それに、多分町田市が舞台として登場している作品の中で一番有名で、かつ具体的に町田の何処がモデルだとわかる作品を選んだらこれになるんじゃないかしら?
【窓井】
確かにそうなんだけど。
よく考えたら、町田が舞台の作品として一番有名な気もする作品に。
町田は登場していないっていうのは何か面白みがあるなって。
まあ、それはともかく。
【識句】
ともかくなの?
【窓井】
うん。今の話題はあくまで今回がこのシリーズの感想はラストだから一応確認しておきたかっただけだし。
早いところ『駅前狂騒曲』の感想に入らないと、文字数稼ぎだと思われるからね。
【識句】
別に誰もそんなこと疑わないと思うのだけれど。
とはいえ、読者の為にも早く本題に入った方がいいでしょうね。
で、今回の感想はどうなのかしら?
【識句】
そうだね。
個人的には行天と僕の価値観は実に近いと思ったってあたりかな?
【識句】
例えばどのあたりが?
【窓井】
生死観とか、あるいは正気と狂気といったあたりとかだね。
ただ、明確な違いもあるけど。
【識句】
明確な違い?
【窓井】
例えば、行天と僕では命や家族に関するところが真逆というか。
僕の場合、家族は持っても、新しい命を作る事には加担したくないからね。
少なくとも人間やあるいはその程度の思考力を持った存在は生み出したくない。
【識句】
……それはそれで随分と変わっているわね。
【窓井】
そうだろうね。もし僕のような価値観が多数派なら。
とっくの昔に人類は滅んでいるだろうし。
……まあ、それはともかく。
そういう違いはあるけれど。
ただ一方で正気と狂気については大体行天と考えが同じな気がしていて。
【識句】
正気と狂気ねえ。
そもそも今回の作品自体、それがテーマの一つだったんじゃないかしら?
ほら、タイトルにも〈狂〉の字が入っているし。
【窓井】
そんな気もするね。
で、個人的にそのテーマを考えた時に、一番それを表しているのが。
バスジャック老人一行だったんじゃないかって考えていたんだけど。
【識句】
バスジャック老人一行?
【窓井】
うん。どうもこの小説を最初に読んだ時。
あの一団だけ、今までの作品の雰囲気と浮いている感じがあって。
だから逆に、この一団がこの小説のテーマの鍵なんじゃないかって。
【識句】
他の集団ではなくて?
【窓井】
いや、他の集団も比較対象として必要なんだけど。
何故他の集団、例えば星の一味やHHFAに比べて。
バスジャック老人一行が異質に見えるかって事が鍵っていうか。
【識句】
何故ってそれは……あたらめて考えたら。
他の集団は「裏社会の人」とか「カルト教団の残党」とか。
明らかに世間と違う集団……あ、なるほど。
【窓井】
何かわかった?
【識句】
私たちは普段、異常なものっていうと。
「自分達とは別のもの」と錯覚して生きていて。
星の一味やHHFAにはそれぞれ。
その「別のもの」としてのレッテルが張られているけれど。
バスジャック老人一行は特にそういう説明はなく。
日常の延長として奇行に走っている感じよね?
【窓井】
そうそう、そんな感じに考えた訳。
で、ここに「傍から見れば異常な集団も、内部の人にとっては正常」。
っていう視点が入るんだけど。
大抵の読者は裏社会の人やカルト教団には「自分達とは別」という先入観があるから。
彼らの行動を見ても「正気のまま異常な事をする」というのが感覚的には掴みにくい訳で。
【識句】
一方、バスジャック老人一行は日常と異常の間の集団だから――
【窓井】
うん。正気のまま異常な事をする事の危なさが伝わるっていうか。
まあ、少なくとも「自分達と同じような人達なのに何故」という感じは受けるでしょ?
【識句】
で、その「自分達と同じような人達なのに何故」という感覚が。
最初に言っていた彼らだけ今までの作品の雰囲気と浮いているって感覚になるのね。
【窓井】
だろうね。まあ、だから。
あの集団に僕が感じた違和感は、おそらくは作者が意図したもので。
そしてそれは行天の言っている。
「常に自分の正気を疑う」を描くためのものだったんじゃないか。
――っていうのが僕の感想なんだけど。どうだろう?
【識句】
どうだろうと言われても、感想は人それぞれだからそういう解釈もあるでしょう。
としか言えないのだけれど。一つ言うなら。
【窓井】
言うなら?
【識句】
この作品の主人公、多田についてはどうなのかしら?
彼について、今回の感想では全く触れていないのだけれど。
【窓井】
え? そこなの?
……どうって言われてもな。多田は僕と違って、まだ常識人の方だし。
あ、でも彼の言っている事で強く共感できるものもあったな。
【識句】
それは何かしら?
【窓井】
親も一人の人間だから、子供の為に全て犠牲にするのは良くないっていうような話。
正直、親に犠牲になれた子供側からしたら同意せざるを得ないんだよね、これ。
【識句】
なるほど、その部分ね。
まあ、この部分に関しては私も考えるところがあるのだけれど*4……そうね。
一概に、子供の為に犠牲になったから良い親とも言えないでしょうね。
【窓井】
うん。だろうね。
で、この辺りの親子観っていうのも。
僕がこの作品、あるいはこのシリーズが好きな理由なんだけど……。
まあ、これ以上書くと記事が長くなり過ぎるから今回はここまでとして。
こうして3回に渡って感想を描いた『まほろ駅前』シリーズですが。
個人的にはとても気に入っている作品なので是非、このブログを読んでいる人には実際に読んでもらいたいなぁ……と。
【識句】
気に入っている作品と言いつつ。
まだあなた、この作品のドラマ版も映画版も見ていないわよね?
【窓井】
そ、それについてはまたいずれ見ますので。
よろしくお願いします。
そして、この「町田が登場する文学作品を読むコーナー」は次回。
『ナオミとカナコ』*5の感想になる予定です。
そちらの方の感想もまた、よろしくお願いします☆
(この記事で窓井と会話している桑林識句は架空の人物ですが、読書の感想については実際に窓井が読んで感じた事を元にしています)